大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)1370号 判決 1965年2月09日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人益谷幾蔵名義の上告理由について。

原審の確定したところによれば被上告人らの上告人に対する原判示の本件貸金債務については、原判決添付弁済金一覧表のとおりの支払がなされたが、右支払に際し、債務者たる被上告会社からは弁済充当の意思表示がなされず、債権者たる上告人において原判示の領収証兼清算書を被上告会社に交付することにより弁済充当の意思表示をしたところ、同被告人において遅滞なく異議を述べなかつたというのである。

ところで、金銭を目的とする消費貸借上の利息、損害金の契約は、その利息、損害金が利息制限法一条四条の各一項所定の率により計算した金額をこえるときは、その制限超過部分につき無効とされ、右部分の債務は存在しないのであるから、右部分に対する支払は弁済の効力を生じない。したがつて、原審の認定した本件の前記支払が同法一条四条の各二項にいう「超過部分を任意に支払つた」場合に該当しないとはいえないとしても、前記制限超過部分に対する弁済の指定は無意味であり、結局その部分については指定がないのと同一であるから、本件におけるごとく元本債務が残存するときは、右超過部分に対する支払は民法四九一条により元本債務に充当されると解するのが相当である。しかるときは、上告人において被上告人らから支払をうけた前記金員が原判示の経緯により本件残存元本債務の弁済に充当され、本件公正証書に記載された貸金債権は元利金とも弁済により消滅したとする原審の認定ないし判断は正当である。所論は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を非難するに帰し、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、横田裁判官の意見あるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

横田裁判官の意見は、次のとおりである。

私は、債務者が利息制限法所定の制限を超過する約定の利息又は損害金を任意に支払つたときは、その超過部分の返還を請求することをえないばかりでなく、その超過部分につき民法四九一条による法定充当も行われないと解するのであるが、債務者が充当すべき債務を指定しないで弁済したときは、民法四八八条二項により債権者においてその弁済の充当をし、これに対し債務者が直ちに異議を述べなかつた場合においても、利息制限法一条二項又は四条二項にいう任意の支払があつたものということはできないから、右弁済額中超過部分については民法四九一条による法定充当が行われるものと解するのが相当である。本件につき原審が確定したところによれば、被上告人らがした本件各弁済については同人らによる充当の指定がなんらないため、上告人において充当をし、これに対し被上告人らにおいて直ちに異議を述べなかつたというに過ぎないのであるから、右各弁済については民法四九一条による法定充当が行われるべきであることは、前段説示したところにより明らかである。されば、右と同趣旨に出た原判決は正当であり、右と見解を異にする論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 柏原語六 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎)

《当事者》

上告人 三和金融株式会社

右代表者代表取締役 笛田高義

右訴訟代理人弁護士 数馬伊三郎

被上告人 友和建設工業株式会社

右代表者代表取締役 山本守人

被上告人 山本守人

被上告人 山本俊彦

右三名訴訟代理人弁護士 廬原常一

被上告人 玉置忠次

被上告人 築井田治

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例